田舎で家庭教師をするという選択肢とジレンマ 〜個人契約と仲介ビジネスの現実〜

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大学を卒業して東京から地元の田舎にUターンした私は、しばらくの間、仕事に就けずに悩んでいた。
そんなとき、家庭教師協会に登録すれば比較的すぐに仕事が得られると聞き、登録した。最初の感想は、「やっぱり東京と違って仕事が少ないけれど、これでなんとかなるかもしれない」という安堵感だった。
ところが、実際に家庭教師として稼働してみると、ある構造的な"違和感"に気づくことになる。それは、家庭が支払う金額と、自分に入る報酬の間にあまりにも大きな差があるということだった。
実際の取り分と現実
例えば、ある家庭が家庭教師協会に月5万円を支払っていたとする。その中で、私が受け取る報酬は、たったの1万円だった。これは感覚的にではなく、実際に契約書や報酬明細を見て分かった事実だ。自分が生徒と直接契約できれば、仮に月3万円の契約であっても、家庭にとっては2万円の節約、自分にとっては3倍の収入になる。
そう思って、ある家庭にこっそり相談を持ちかけようとしたとき、協会側から強く叱責された。「そのような行為は規約違反であり、即時登録解除の対象です」と。確かに、私がサインした登録書には、協会を介さない直接契約の禁止が明記されていた。
これは法律的に問題があるのか?
ここで立ち止まって考えたい。「協会を通さずに家庭と直接契約すること」は、果たして法律的に問題なのだろうか?結論から言うと、法的にはグレーである。
仲介業者との契約内容次第ではあるが、たとえば業務委託契約において、「同一顧客との直接契約を禁止する」という条項はよく見られる。ただし、これは独占禁止法や下請法などの観点から問題視される場合もある。特に、契約解除後に自由に契約できないような内容は、「競業避止義務」の不当制限とみなされる可能性がある。
しかし、登録している間はその協定に従う必要がある。つまり、在籍中に直接契約を結ぶのは、契約違反となりうる。法的というより、契約上の問題であり、やはりリスクが伴う。
生徒・家庭側の声
一方で、家庭側に話を聞いてみると、「5万円払って先生には1万円しか入っていないの?それならもっと直接頼みたかった」という声が多く聞かれる。実際に教育の質や相性が合えば、家庭としては効率よく契約したいと考えるのは当然だ。
ではなぜ、家庭は最初から個人に依頼しないのか。
- 個人とつながる手段がない
- 信頼性や安全性の担保が難しい
- トラブル時の対応が不安
などが主な理由だ。特に田舎では、人づての紹介が強く、ネット経由で家庭教師を探す文化が根づいていない地域もある。
エアコン工事との比較と違和感
興味深いのは、他の業種との比較だ。例えば、エアコン取付工事では、大手家電量販店を通すと中間マージンが大きいため、工事業者と顧客が勝手に個人契約に切り替えることがよくある。これに関しては、表向きには推奨されていないものの、現場では黙認されていることが多い。
それに対して、家庭教師業界では厳しく取り締まられている。その違いは何なのか。教育というサービスの性質が、長期的な信頼関係や人間的つながりを必要とするからかもしれないが、やはり違和感は残る。
解決のヒント:プラットフォームの透明化と個人の信用スコア
このジレンマを解消するには、家庭教師と家庭をマッチングするプラットフォームの透明化が必要だ。たとえば、以下のような要素があれば、個人契約でも信頼を構築できる:
- レビューシステム(評価)
- 本人確認・資格証明の提示
- トラブル対応のサポート窓口
- 月額利用料制のマッチングサービス(例:月千円で数名検索可能)
このようなサービスは都市部では徐々に広まっており、田舎でもインターネット環境が整えば可能な時代になっている。
最後に:田舎で生きるための工夫は悪ではない
私は、田舎でどうにかして収益を上げたいと真剣に考えていた。協会を出し抜こうという意図ではなく、生活を立て直すための試行錯誤だった。しかし、仕組みそのものがそれを阻んだ。結局、私はその世界から遠ざかることになった。
田舎では、人脈も情報も限られている中で、どうにか収入を得るには知恵と工夫が必要だ。それを"ズルい"と否定するのではなく、もっと柔軟で公平な仕組みをつくるべきではないか。
一人の経験者として、これから田舎で家庭教師など個人業を始めようとしている若者たちには、法的な視点や契約の仕組みも理解しつつ、自分の価値を適正に届ける方法を見つけてほしいと願っている。